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千葉地方裁判所 昭和48年(ワ)140号 判決

原告

土屋康江

ほか三名

被告

鈴木敏昭

主文

一  被告は原告土屋康江に対し、金二、〇五万一、一七四円と、原告土屋義光、同土屋和人、同土屋義直に対し、各一、四九万三、六三八円と、以上各金員に対する昭和四八年四月五日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

四  主文第一項は、仮に執行することができる。

事実

(当事者の求める裁判)

原告ら

一  被告は原告土屋康江に対し、金六、九四万三、一四五円と、原告土屋義光、同土屋和人、同土屋義直に対し、各四、〇三万八、九四〇円と、右各金員に対する昭和四八年四月五日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行の宣言。

被告

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

(当事者の主張)

第一請求原因

一  事故の発生

訴外土屋義征(亡義征という)は、被告運転の同人所有の千葉四四に二四三七自家用普通貨物自動車(本件自動車という)に同乗し、昭和四七年六月八日午前一時一〇分頃、千葉県印旛郡八街町八街に五五番地先にさしかかつたところ、被告は、自車の運転をあやまり、右自動車を道路外に逸脱して、傍の樹木に衝突させ、助手席にいた右義征に右大腿骨々折、頸椎損傷の傷害を与え、よつて同日午前一時四〇分頃、同人をして死亡させた。

二  責任原因

1 被告は、本件自動車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法第三条により、本件事故による損害を賠償すべき責任がある。

2 又、被告は、酒に酔つた状態で、本件自動車を運転し、前方に対する注意を欠き、ハンドル操作を誤つた結果、上記事故に至つたものであり、同事故は被告の過失によるものであるから、民法第七〇九条による責任がある。

三  損害

1 亡義征の損害

亡義征は、死亡当時三二歳であり、生前土工として稼動し、年九一万二、〇〇〇円の収入を得ていたところ今後尚三一年間就労可能と解せられるところ、その後の物価上昇率六〇%を考慮すれば、その逸失利益は二一、三二万七、〇九六円となるところ、亡義征の好意同乗による過失を斟酌し、結局少くとも上記年収額より、生活費として、その五分の一である一八万八、四〇〇円を控除し、これに(七二万三、六〇〇円)年五分による法定の中間利息を控除した一三、三二万九、四三五円を下らない額がその逸失利益となる。

723,600×18.421(31年の新ホフマン係数)=13,329,435

2 原告らの損害

(一) 慰藉料

原告康江は亡義征の妻であり、その余の原告らはその子であるところ、(他に非嫡出子一名あり)、義征の死亡により、甚大な精神的苦痛を受け、その慰藉料は原告康江は二〇〇万円、その余の原告は各一〇〇万円、合計五〇〇万円をもつて相当とする。

(二) 弁護士費用

原告らは、本訴提起のため、弁護士に対し、各五〇万円、合計二〇〇万円の謝金を支払う約定をなした。

3 原告の各損害

原告らは亡義征の損害を各相続分に従つて相続したものであり、原告康江は四、四四万三、一四五円、その余の原告は各二五三万八、九四〇円となるところ、上記各慰藉料、弁護士費用を加算すると、原告康江は六、九四万三、一四五円、その余の原告らは四〇三万八、九四〇円となる。

四  よつて、原告らは被告に対し、各上記損害額と右各金員に対する訴状送達の翌日である昭和四八年四月五日以降完済まで、民法所定年五分の割合による遅延損害の支払を求める。

第二請求原因に対する答弁

一は認める。

二 1のうち、本件自動車が被告の所有であり、自己の運行の用に供していたことは認めるが、その余は争う。

同2は争う。

三のうち、亡義征が死亡当時三二歳であること、原告康江が亡義征の妻、その余の原告らがその子として戸籍に記載されてあることは認めるが、後記のとおりの身分関係であり、その損害額は争う。

原告康江は、亡義征と数年前より別居し、事実上離婚していたものであり、その届出手続がなされていなかつたに過ぎず、事故当時、亡義征は訴外熱田キヨ子と夫婦同様の生活をしていたものであり、その間に熱田忠則という認知された一子がある。

四は争う。

第三抗弁

一  被告の無過失

被告は、亡義征や訴外者と飲酒し、亡義征の要請により、本件自動車を運行して成田市三里塚方面に向う県道上を直進していたところ、本件事故現場三差路の手前約五〇米の地点に達した時、亡義征は、突如、三差路を右に曲つてくれと指示し、同時に車のハンドルに自分の手をかけてきたため、被告はハンドル操作の自由を奪われ、三差路を右に曲つた道路左側御嶽神社と道路との境にある樹木に本件自動車が衝突したものであり、亡義征の無謀な行為により、本件事故が発生したものであり、被告には何等の過失はない。

二  過失相殺

被告は、亡義征と知人である訴外綿貫喜代と八街町においてビールを飲んだが、その後、亡義征が知人である訴外渡辺和夫のところへ行きたいというところから、同人宅を訪れたところ、同人の案内ですし屋において四名で日本酒を銚子一〇本位飲酒するに至つたものであるところ、右飲酒後、成田方面に行けという亡義征の指示により、被告は、やむなく本件自動車を走行していたものであり、更に事故現場付近に達するや亡義征は、突如右折せよと称し、ハンドルに手をかけ、被告の体に自分の体を触れてきたため、被告がハンドル操作の自由を失つたものであり、上記各所為がなければ、本件事故の発生には至らなかつたものであるから、亡義征にも過失があり、損害賠償の算定につき、同過失を斟酌されるべきである。

第四抗弁に対する認否

一は否認する。

二のうち、飲酒の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

本件事故は、被告がはしご酒をするため、自動車を運行していたものであり、同被告は酔余、猛スピードで進行したため、事故地点のカーブを曲りきれず、樹木に本件自動車を衝突させたものである。

証拠〔略〕

理由

一  請求原因一の事実及び被告が本件自動車の保有者であることは、当時者間に争いがない。

二  被告は、本件事故につき、被害者に責任があり、被告は無過失である旨を主張しているので、この点について検討する。

成立に争いのない甲第六号証の一乃至四、同第六号証の七、乙第二、三号証、同第六号証、被告本人尋問の結果(後記認定に反する部分を除く)を綜合すれば、被告は、亡義征を誘つて八街市内で飲酒し、更に亡義征の知人と共に飲酒(酒三合位)し、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれのある状況で本件自動車を運転し、被告の知人宅を訪ねたりした上、県道八街三里塚線を、三里塚方面に向つて進行し(目的不明)、本件事故現場である県道八街八日市場線との交差点付近にさしかかつたのであるが、同乗していた亡義征より、その交差点に接近した際、「そこを右に曲つてくれ」と指示されるや、当時、被告は時速約一〇〇粁に近い高速をもつて運転していたにも拘らず、不用意に山武町方面へ右折を開始し、高速であつたため的確に右折することができず、八街八日市場線の道路左側にある、樹木に自動車の左前部を激突させ、亡義征をその衝撃により頸椎骨折により死亡させたことが認められる。

被告は、亡義征が自ら被告の操作するハンドルに手をかけ、体をもたせてきたため、ハンドル操作の自由を失つた旨を述べているが、事故当時においては斯る供述を行つておらず、前記乙第六号証の七によれば、右折するため、ハンドルを右に切り、ブレーキもかけず、減速もせず、右折進行したところ、樹木に激突した旨を述べていることから推して、斯る事実があつたものとは認められない。

以上の事実からすれば、被告は酒に酔い、正常な運転のできない状態のまま、本件自動車を高速をもつて敢えて運転したこと、又右折にあたり、減速して、ハンドルブレーキを確実に操作し、安全に右折すべきところ、これ等を怠つた点において過失の責任を免れない。

三  過失相殺について

成立に争いのない甲第六号証の五、六、乙第三号証によれば、亡義征は、被告と共に飲酒の上、被告に誘われて断りきれず、事故前日の午後七時半頃、被告運転の自動車に同乗して八街町に出かけて飲酒したものであるが、次いで亡義征の提唱により、同人の知人を訪ね、右知人の招待により午後一二時近くまで共に飲酒していたものであり、亡義征は、被告が酔つていることを知り乍ら、同人運転の自動車に乗車し、更に上記のとおり、いずれへかに赴くべく被告が運転進行していた際、右折を指示し、被告がこれに従つて右折を行つた直後の事故であり、斯る飲酒、同乗の経緯からすれば、亡義征にも事故の発生について過失があるものというべく、その過失割合は、同人が四〇%、被告が六〇%と解するのを相当とする。

四  損害について検討する。

1  第三者の作成にかかり、その形式、趣旨により真正に成立したと認められる甲第四号証によれば、亡義征の事故前の同年三月乃至五月の間の一月平均給与は七万九、七三三円であることが認められ、年間九五万六、七九六円となるところ、うち生活費三分の一を控除するのを相当と認め、これを控除すると、六三万七、八六四円となり、被告は死亡当時三二歳であることは被告の認めるところであり、原告主張のとおり、なお三一年間は就労可能と認められ、三一年間の新ホフマン係数一八・四二一を乗ずると一一、七五万〇〇九二円となり、右金額が亡義征の得べかりし収入となる。

原告は物価上昇率六〇%を考慮すれば逸失利益は総額二一、三二万七、〇九六円となる旨を主張するが、物価上昇率については何等の立証がなされておらず、これに伴う賃金の上昇についても、必ずしも物価の上昇と同一率ではないから、この点が明確となつていないかぎり、直ちに六〇%の上昇率を認めることはできない。

従つて、上記認定の亡義征の過失を斟酌すると、その損害額は七、〇五万〇、〇五五円となる。

2  原告康江が亡義征の妻、その余の原告らは亡義征の嫡出子であること、亡義征は右原告らのほかに母の異る嫡出でない子が一名あることは、原告の認めるところであるから、従つて、亡義征の上記得べかりし利益は各相続分に従つて相続されたこととなり、亡康江は二三五万〇、〇一八円、その余の原告らは一三四万二、八六七円となる。

3  成立に争いのない甲第五号証、甲第六号証の五、原告土屋康江本人尋問の結果を綜合すれば、亡義征は、原告康江と三年位前から別居し、原告義光、原告和人を引取り、内縁の妻と約二年半位同棲していたものであることが認められるが、亡義征は原告康江を置いて家出したものであり、同原告は、いずれは右義征は同原告のもとに帰つて来るものとして、離婚の手続には至つていなかつたことが認められる。

以上の事実を綜合して原告康江は妻とし、その余の原告らは子として、上記義征の過失を斟酌しても尚各一〇〇万円の慰藉料を請求し得るものと解する。

4  原告らは、自賠法による義征死亡による保険金として四四九万六、五三二円を受領していることを認めているから、(嫡出でない子の分を除き)これを相続分に応じて分割し、各原告の上記合計の取得分から控除すると、次のとおり原告康江は(一)の一八五万一、一七四円、その余の原告は(二)の各一三四万三、六三八円となる。

(1)  2,350,018円+1,000,000円-1,498,844円=1,851,174円

(2)  1,342,867円+1,000,000円-999,229円=1,343,638円

5  弁護士費用は、損害及び訴訟の経過を綜合して、原告康江は二〇万円その余の原告は各一五万円を相当とする。

五  以上であるから、被告に対し、原告康江は二〇五万一、一七四円、その余の原告らは各一四九万三、六三八円と右各金員に対する事故の後である昭和四八年四月五日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め得べく、原告らの本訴請求は、右限度を正当として認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大内淑子)

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